ブログ版 空冷Zとの戦い

Kawasaki Z1Rに関するブログ?

Archives オーストラリア滞在記(1996-1997) 8

 踊る大走査線(後編)

Kが警察を呼んでくる間、連中の見張りをすることになったオレだが、待てど暮らせど来やしない。
ソワソワしている様子を気取られたのか、二人組みがこちらに気がついた。
オレに向かって何か言ってるようが、遠いのでよく聞こえない。

面倒くさいので、オレは「XXXX・ユー(自主規制)」と中指を立ててやった。
これであっちが向かってくるようなら、そのまま警察まで引きずっていけばいい。


ところが、人影に阻まれオレの挑発はヤツらの目には入らなかった。
そのかわり、上品そうなおばあさんが眉根を寄せてこちらを睨んでいる。

「あらら、ごめんなさいよ」
二人組みはオレを無視して再び会話モード。

「ああ、もう何やってんだ」
オレはKがいるはずの交番までダッシュした。
交番に着くと、Kがまだ警察官と話し込んでいる。
どうやら、あんまりこちらの意向が伝わっていないようだ。

「あのさ、早くしないと連中が逃げてしまうよ。何で現場にいかねえんだよ」
「ここにはパトカーがないから、本部に連絡したところだ。もう少し待ってくれ」
「待ってくれってオレに言ってもしょうがねえだろう。パトカー来なくてもヒトは来れるだろう」
「いや、本部から担当の警察官が来ないと…」

何だかどの国の警察も似たような仕事っぷりだ。
「あっちに戻ってヤツらの動き見張ってるから、早く着てくれよな。それと語学学校にも連絡入れておけよ」
そう言うと、オレは猛然とジョージ・ストリートをダッシュした。

もうどこかへ行ってしまったかもしれない。
そうなったら、この苦労も水の泡だ。

現場に戻ると、二人組みはまだゲーセンの前に座っている。

ヘタに刺激してどこかへ逃げられるのもマズイので、オレは着かず離れずで二人を見張っていた。
すると、突然二人は地べたから腰をあげた。
「クソ、やべぇ」
こうなったらヤケクソだ。
適当に因縁つけて、足止めしてやるしかない。


リングブーツをガッツンガッツンと鳴らし、睨みつけてやりながら、二人組みに歩み寄る。ただならぬ様子を察したのか、二人組が振り向いた。
おそらく「なんだ、おめえ、この野郎」と中国語で怒鳴る二人組。
こっちは、まだまともな英語で言い返せないから「Shut up fat boys」と中指を立ててすごんでやる。

まさに一触即発。
二人を相手にするのはしんどいが、真昼間のジョージ・ストリートでナイフなんて出してこないだろう。
あとは、何をゴングにするか…とタイミングをはかる。

瞬間、パトカーが甲高くブレーキを鳴らして停車した。
ドアが開き、数人の警察官が間に割って入った。
警察官は手際よく二人を羽交い絞めにして、トランクの上にねじ伏せた。

二人は奇声をあげて抵抗したが、腕がねじ上げられているので身動きはとれなかった。
その間にも、別の警察官が二人の所持品をチェックし始める。

パトカーの中にはKと語学学校の事務員が座っていた。

「よー。やっと到着したか」
 事務員のおじさんが軽く頭を下げる。
「あいつらっすよ。しっかり顔を拝んでやってくださいよ」
しかし、事務員のおじさんは目だけを動かし、こちらを振り返ろうともしない。

「報復があるかもしれないので、顔を見せないよう言われました」
と言ったものである。

じゃあ、オレはどうなるんだ?何の関係もないのにここまで頑張ったというのに。
留学生を預かる学校の職員がこんな風だから、事件が解決しなかったんじゃないのか?

よっぽど怒鳴りつけてやろうかと思ったが、とりあえずそれはつかまった二人組みにぶつけることにした。

オレは組み伏せられたままの容疑者の傍らに立ち、そいつらの耳元に囁いた。
「よう。楽しい留置所暮らしをな」
二人はこめかみに青筋を立て、何やら早口でまくし立てた。
「うるせえ。マヌケどもめ」
今度はしっかりそいつらに見えるよう中指を立て、オレはその場を後にした。

その後、犯人グループはイモヅル式に検挙され、3000ドルを奪った犯人も捕まったという。オレは逮捕に協力したことで、警察からの金一封を期待していたのだが、感謝状の一枚も出なかった。

結局、オレの苦労とリスクはちっともリターンされなかったのだった。
しかも、かわいいと思っていた○○は、オレのまったくの勘違いで、被害にあったのは全然知らない女の子だったというオチまでついていたという…
余計なことにクビを突っ込まない方がいいね。

 


 踊る大走査線(番外編)

次の話は、正確に言うとオレのネタではないのだが、身近にあった話なので紹介しよう。
友達のひとりにヨッシーというヤツがいた。
こいつは医大を休学して豪州にやってきたヤツで、日本ではカタナに乗っている。
お互いバイクに乗っているということで、オレが学校を出てからもちょくちょく遊びにきていた。


当初、ヨッシーは安いホテルに暮らしていたのだが
「英語を話すチャンスが少ない」というので、新しく部屋を探すことになった。
 
その間の話は措くとして、ヨッシーが見つけたのはレッドファーンという街のフラットだった。レッドファーンはシティの南に位置する。
ヨッシーのフラットは、ちょうどオレがよく行くカワサキの店から歩いて5分くらい、駅からも2分くらい。

利便性は抜群なのだが、実はこのレッドファーン、シドニーでも最もデンジャラスなエリアと言われている。

「うそー。そうだっけ?」
ガイドブックを見ても載ってない。
多分、キングス・クロス辺りしか書いていないはずだ。

レッドファーンやそのとなりのサリー・ヒルズには大勢のアボリジニが住んでいる。
しかも、大半がドロップ・アウトした人々で、気性も荒い。
というより、危険である。

以前、駅前の道路に無謀運転防止用の段差がつけられていた。
ここを通る車はスピードダウンしなければ、車体を擦ってしまう。
ある日、一台の車が段差を乗り越えようと減速した。その瞬間、周囲から大勢のアボリジニが襲い掛かり、車はボコボコ。運転手は金品を強奪されたという。


翌日、すぐに段差は撤去されたが、レッドファーンは「シドニー最悪の街」として再認識されることになった。

昼間は閑散としており、それほど危険な雰囲気は感じられない。
だが、よく見ると通り一本を境界線に家並みの雰囲気が全然違う。
ヨッシーはまさにその境界線の通り沿いに住んでいた。

時々、ヨッシーと2ケツで遊びに行っていたが、迎えに行った時も呼び鈴を鳴らすとバイクから降りなければならないので、オレは軽い空ぶかしを合図代わりにしていた。

ある日、いつものように「ヴォン、ヴォン」と鳴らしてヨッシーを待っていたら、四方からアボリジニが近づいてきた。
どうもオレを取り囲もうとしているらしい。

何だかヤバそうな雰囲気だったので、オレは思い切り空ぶかしをくれてやり、ついでに軽くホイルスピンを当ててやった。

途端にサイレンが鳴り、オレの目の前でパトカーが停車した。
アボリジニが去ったと思ったら、今度は拳銃を構えた警察官に包囲された。
 
「何だこの野郎」と思ったが、ヘタをして銃をぶっ放されたらたまったものではない。とりあえず、オレは両手を上げ「オレは日本人だ。裏側にパスポートが入っている」と、内ポケットを顎で指した。

この国ではそんなこともないだろうが、悪徳警官が「これは何だ」とあらかじめ用意した麻薬をオレが持っていたように見せかけ、ゆすろうとする話を聞いたことがある。
オレは背後に回られないよう、背中を金網に押し付けておいた。

「ここで何をしているのかね?」
「その家に日本人の友達が住んでいるので、遊びに来ただけだ。ウソだと思うなら住人に確かめてみればいい」
「いや、それにはおよばない。協力ありがとう」
どうやら、警察官はオレを麻薬の売人と勘違いしたらしい。
「ただ、君も長く住んでいるなら知っているだろう。この前も強盗事件があった。昼間とはいえ、あまり近づかない方がいい」
警察官の目が、通りの向こうを見据える。
さっきのアボリジニが固まり、警察官を挑発するように怒鳴っている。

とまあ、レッドファーンでは万事がこんな具合なので、オレもヨッシーのことは気がかりだった(家探しにはオレも手伝ったので、なおさらだ)。
でも、ヨッシーはそこいらの頭でっかち医大生ではない。

大学ではボクシング部に所属し、国体出場もほぼ決定していた現役のボクサー。
シドニーでもジムに通い、自分よりも2つ3つ階級が上のボクサーとスパーリングをこなすタフな男だ。

ためしにオレも一、二回ヨッシーのパンチを受けたことがあるが、ボクサーのパンチは重く鋭い。
「いいぞ、やれ」と心の準備をしていながらも、6割7割のパンチでオレの身体は「くの字」に折れた。


ケンカなれした素人でも、顎や腹に入れられたら、まず数分は動けないだろう。
心配ながらも「ヨッシーなら大丈夫かな」と思っていた。

しかし、とうとうヨッシーにも災難が降りかかる。
ある日、ヨッシーが買い物の帰り道、駅を出たところで数人のアボリジニに襲われ、ビニール袋と財布を奪われたのだ。
袋に入っていたのは食材くらいで大した損害ではなかったが、財布は大事だ。


カード類は本人じゃないと使えないので、問題はなかったが、財布は彼女からもらったプレゼント。何が何でも取り返そうと、ヨッシーは果敢にもスラム街まで追いかけていった。

相手は酒浸りでロクな運動もしていないアボリジニ
ヨッシーが彼らに追いつくまでに時間はかからなかった。
ヨッシーは財布を返せと詰め寄ったが、当然「はいどうぞ」と言うはずがない。
そればかりか「バンクカードは返してやるから、ATMで50ドル下ろして来い。そしたら、財布は返してやる」とぬかしたという。

ムカつく話だが、思い出の品には換えられない。
ヨッシーはATMまで歩いていたが、仲間らしきアボリジニが一本向こうの通りからコソコソと追いかけてくるのが見える。
「こりゃ危ない」とヨッシーはとりあえず、その日は家に帰った。

次の日、ヨッシーは再び危険地帯に足を踏み入れ、犯人に財布を返すよう交渉した。
押し問答が続いた挙句、アボリジニ
「テメエ、それ以上ガタガタ抜かすとぶっ殺すぞ!」と拳を振り上げた。
ヨッシーは「やれるものなら、やってみろ!」とヘソの辺りを指差した。
自分よりも小さい相手に挑発されたアボリジニは、ヨッシーの腹めがけてパンチを打ち込んだ。しかし、相手はバリバリのボクサー。何発殴っても効くはずがない。

「お前のパンチなんて、そんなものだ」
ヨッシーが「返せ」とすごんだ瞬間、通りの向こうからゴルフクラブやバットを持ったアボリジニが押し寄せ、壜や石を投げつけてきた。
多勢に無勢というわけで、ヨッシーは退却を余儀なくされた。

次の日、もう一度犯人たちを探しに行ったら、まだ幼稚園くらいのアボリジニの女の子がヨッシーを呼び止め「あんた、これ以上深入りすると本当に殺されちゃうわよ」と警告したという。

この一言で、ヨッシーは「あんな小さい子供が死ぬとか殺されるとかいうんだもんなあ。やる気も失せたよ」と諦めた。

幸い、海外旅行保険に加入していたので、いくらか保険金が出たようだが、彼女からのプレゼントを失ったヨッシーは、かなり落胆していた。
そういうこともあって、オレも時々レッドファーンを自主的に巡回していたのだが、本当に危ない地域である(なんでお前が巡回するんだよ、というツッコミはナシで)。

観光客にはほとんど縁のない場所だが、アウトレットの店があるので長期滞在者には馴染み深いところでもある。
これからシドニーへ行くヒトやら、住んだばかりで何も分からない人たちは気をつけよう。

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ヨッシー。こんな優男が鋭いパンチを繰り出すとは誰も想像できないだろう。


※いまは、レッドファーンもだいぶ治安が良くなってきたらしい。
でも、日本と勝手が違うことが多いのが外国なので、気をつけよう。