ブログ版 空冷Zとの戦い

Kawasaki Z1Rに関するブログ?

櫻井くまら、という女性を思い出した

先日、BUCK-TICKのヴォーカリスト櫻井敦司さんが亡くなった。

まだ60歳にも満たぬ年齢だった。

BUCK-TICKがメジャーシーンに登場するや否や、ティーンズたちのハートを鷲掴みにして、女子はもちろん男子たちも彼らのビジュアルに影響されていた。

 

そのころ、よく遊んでいた女の子も彼らに夢中になって、半強制的にBUCK-TICKの曲を聴かされるだけではなく、彼らがいかにカッコいいか聴かされる羽目になった。

まだ若かったせいか、半分やきもちを焼いたように面白くなさそうな顔をして、彼女の話に相槌を打っていた記憶がある。

 

それから何年かして、ある女子と知り合った。

彼女は「櫻井くまら」と名乗る女子高生で、ヨハネ(余破音)という、いまでいう「ガールズバンド」を率いていた。

彼女たちが作り出す世界観は、文学的、耽美的というか、いわゆるノリノリの音楽ではなかった。

 

やや浮世離れしており、あと少し踏み出したら狂気の世界へ行ってしまうような危うさがあり、それは若い女の子にありがちな不安定さだったのかもしれないけど、臆することも恥じることもなく堂々と自分の世界観をアウトプットする彼女の言動に惹かれていた。

 

一方で彼女には現実的というか、ちゃんと年相応の女の子と同じ感覚もあって、それがBUCK-TICK櫻井敦司に恋する…いまでいう「推し」というヤツだった。

実は彼女の「櫻井」というファミリーネームも本名ではなく、いわゆる芸名だと知ったのは、少し後になってからだった。

 

前述の同級生がBACK-TICKの音楽性を軸に櫻井敦司さんの素晴らしさを語っていたのだが、彼女はひたすら櫻井さんがいかに美しいかを語っていたので(もしかしたら、よそではそうではなかったかもしれないが)、恋に恋する乙女という一面を見た気がして、微笑ましかった。

 

自分が知る限り、彼女と出会った人たちの多くが彼女のルックスを褒めていたし、自分もそれは認めていたけど、兄と妹のような関係のまま(実際、彼女からは兄貴と呼ばれていた)だった。

彼女との交流は何年か続き、一緒にステージで演奏したこともあったけど、出会った頃、女子高生だった彼女も成人して酒や煙草をたしなむようになり、覚えたての大人のセリフを振り回しては、周りの人たちを傷つけることも多くなった。

 

自分ともそんなやり取りが多くなり、明らかに論点が外れて、お互いを罵り、傷つけるためだけのやり取りが繰り返されたこともあったと記憶している。

そんな関係に辟易してしまい、やがて距離を置くようになった。

 

ほどなくして、社会人になり、自分の暮らしが目まぐるしく変わっていた時期と重なってしまい、彼女とはすっかり疎遠になってしまった。

最後に言葉を交わしたのがいつで、どんなやり取りがあったのかさえ、もう思い出せない。



それから随分と時が過ぎて、時代が令和になった頃。

 

一度だけ、彼女を見かけたことがあった。

彼女の家からそう遠くないショッピングモールの中にあるパン屋のイートイン席で、マグカップを片手に座っている彼女を見かけたのだ。

歳を重ねてはいたけど、あまりあの頃と変わらないままだった。

 

どう声をかけるべきか、何というべきか。

逡巡のようなものが脳裏を駆け巡る。

気を落ち着かせようと、意味もなくフロアを一周してから店に戻り、呼吸を整え、いざ彼女に声をかけよう。
そう思ったけど、彼女の姿は無かった。

休日、人がごった返すショッピングモールで服装もよく覚えていない女性を探すのは不可能だった。

 

そして、櫻井敦司さんの訃報。

彼女もこのニュースを知っているはずだ。

恋焦がれたアーティストの早すぎる死が、どんな風に彼女へ届いたのか知る由もないが、できることなら若かった頃の振る舞いを謝罪できたらと願っている。