ブログ版 空冷Zとの戦い

Kawasaki Z1Rに関するブログ?

Archives オーストラリア滞在記(1996-1998) 1

1年半という長い間、海外を放浪していたわけだが、年がら年中宿無しだったわけではない。
 それなりに向こうの「日常」というヤツを味わってきたのだ。表立って語られなかった海外生活を今ここに紹介しよう。

 Around The Worldでは、結構スカしてるというか、それなりにカッチョええこと言っているが、実はこのオトコ、海外はこれが初めて。某旅行代理店で航空券を購入する際、真顔でカウンターのお姉ちゃんに「安いんだったら、自由席ください」とほざいたことは、一部では有名な話である。
 ついでにいうと、オレの高校の英語の成績は最低である(最低なのは英語だけではないが)。もはやドロップアウト寸前であった。そういう人間が単身海外へ行くってんで、家族や周囲は『身体を張ったギャグ』と暖かい拍手を送ってくれた。 

 初めてのものがいっぱい
 

 何せ飛行機に乗るのも初めてなもんだから、全然勝手が分からない。どこまでが無料でどこまでが有料なのか。新幹線の車内販売のように「お弁当にサンドイッチ、お飲み物はいかがですか?」とお姉ちゃんが練り歩いたりはしないのだろうか?
 とか考えているうちに、飛行機が滑走路に乗り、ものすごい勢いで飛び立つ。単車じゃ味わえないような加速感だ。多分、今まで乗った乗り物のうちで一番スゲェ加速だ。
 この瞬間の感動を忘れてはいかんと手帳に「ものすごいGが身体を襲う…」とか書いてみたが、ものすごい振動だったようで、後から読み返しても何のことやら分からなかった。
 
 ところで、貧乏人のオレが乗った飛行機はアシアナ航空。そう、豪州に直接行くのではなく、韓国で乗り換えるのだ。てなわけで、スッチーはみんな韓国人のお姉様方。
 機内の放送は英語と韓国語なので、全然分からない。とりあえず「お食事は肉と魚、どちらにしましょうか?」という質問には「ボス(両方)」と答えてやった。そしたら、ホントに両方くれた。とりあえず、言ってみるものである。
 
  そういや、離着陸の時ってシートベルトしてちゃんと席に座っていなければならないそうだが、オレは緊張したりドキドキワクワクすると、便意をもよおすという特殊な体質の持ち主なのだ。初めての飛行機、初めての海外…と初めて尽くし、もはや『初めて』のフルコース。どんだけ胸の高鳴りが激しいか想像に難くないだろう。
やっぱりトイレに行きたくなったのだ。
 
でも、着陸の衝撃がものすごいコトは、韓国のトランジットで経験済み。ここはガマンしようとこらえるが、にっちもさっちもどうにもブルドックだ(知らねぇだろうな、こういうネタ)。オレはトイレにダッシュし、便座に腰を下ろした。

「ふう、あぶねえところだ」と息をついた瞬間、ものすごい衝撃が身体を突き抜けた。用を足している間に、飛行機は着陸したのだ。下半身丸出しのオレは、前後左右ついでに上下と弾かれ、身体のあちこちをトイレのカベに打ち据えた。

痛いのも大変だったが、便器から物体Xが逆流してこないかとヒヤヒヤさせられた。てなわけで、記念すべき海外への第一歩というか着陸の瞬間を見るコトが出来なかったのだ。
とにもかくにも、無事シドニーに到着。 


豪州到着

 

 飛行機を降りたら、後は税関へと向うだけだ。近頃のガイドブックは空港内の見取り図も明記されているため、若葉マークの人間でも迷うコトはない。ただ、問題なのは税関職員とのやりとりだ。
 映画やドラマのように『目的は何ですか?』と訊かれるハズだ。怪しいヤツに対しては「何日滞在するのか」「何処に泊まるのか」「職業は何か」と芸能レポーターよろしく次々とたたみかけるらしい。だが、ここでヘタなことをいうと、即刻強制送還だ。生みの親も呆れるほど人一倍人相が悪いオレは、万面の笑みを浮かべながら税関へ歩み寄った。
向こうからすりゃ、えへらえへら笑いながら近よってくる怪しい東洋人に見えたことだろう。

「ヘロー」
『ハーイ、$*※∑…』
税関の職員は30がらみのアンちゃん。公務員なのにニコニコと応対してくれる。
その優しい笑顔とは裏腹に、残酷なまでにスピーディな英語で話しかけてくる。
「はあ…いやね、さいとしーんぐして、バイトして、モーターサイクルを買ってガーって走んの。ガーっと。オーケー?」
と、オレは身振り手振りで解説。まるで出来損ないのパントマイムだ。
『ハーハアン。#$@>%…』
アンちゃんは「ハーハアン」と頷いている。どうやら、向こうにはオレの言いたいことが通じたらしい。
「ずぶのビギナーだが、一年間がんばるんでよろしく」
ペコリとアタマを下げるオレに、アンちゃんは相変わらずニコニコしている。
『&%⊇♂∮Ω…シーヤマイッ』

とまあ、ファーストコンタクトはこんなもんである。何を訊かれたのかちっとも分からないが、とりあえずベタンとスタンプを押してくれた。
やはり重要なのは気持ちである。
ところでオレは入国カードの書き方が分からず、革製品を持ってるかどうかのとこをチェックしてしまった。してしまったというか、ウェスタンブーツは革だし、時計のバンドも革である。そういやベルトも革製品だ。オレは覚えている限りの革製品を書き綴ってやった。

そしたら、税関の職員は『ノーノー』とややウケ気味に笑っている。後から知ったことだが、ここでの革製品はすんげえ高価なヤツとか(毛皮みたいな)を持ちこんでいないかどうかをチェックし、帰国の際、関税がかかんないようにするためのものだった。
バカ正直なオレはとんだ恥をかいたわけだ。

 

ここはどこ?ワタシは誰?

空港のゲートを無事くぐり抜け、外に出てみる。
実質上、これがオレにとっての第一歩。
ベタ塗りのように一点の曇りのない青空、乾いた風…おお、海外。
おお外国。
オレ、この国じゃ外国人。
普通ならここで添乗員さんが「こちらになりまーす」となるのだが、何せこっちは個人旅行。旅行代理店が面倒を見てくれるのは、チケットまで。

どうしたもんかとウロウロしていると、目の前を黄緑と黄色に塗りたくられたバスが走ってゆく。行き先にはCITYと表示されている。
きっと街中にいくバスなのだろう。
本当なら空港からシドニーの街中まで歩いて行こうかと思ったが(ものすごい無茶な考え。何時間もかかる)、モノは試しと乗ってみる。

自慢ではないが、オレはバスに乗れない。
地元でアシ(クルマ、バイク)を持っている人間にバスは無用の長物なのだ。
それにバスは乗り間違えると見当違いの方向へ連れて行かれると思っているので、『恐ろしい物』のひとつとしてランキングされている。とはいえ、ここでバスに乗らなければどうにもならないので、とりあえず乗り込む。

景色を見ている限り、だんだん都会に近づいてゆくようなので胸をなでおろす。
次第にゴチャゴチャしてきた。人も大勢いるし、車もガンガン走っているので「多分、ここいらへんが街なのだろう」というところで降りる。のっけからいい加減だが、今までの人生もこの調子だ。今さら体質改善なんて出来るはずがない。

矢吹ジョーというか船員のズタ袋ひとつで外国にやってきたオレは、まさしく『放浪の旅人』だ。だが、こいつはえらい失敗。
収納性が悪く、ストラップが細いので肩に食いこんでくる。
もはや限界。オレは「はあ」と座りこんでしまった。
まずは、今夜からの宿を探さなくてはいけない。
一応、旅行代理店にクソ安いホテルを予約してもらったのだが、詳しい場所が分からない。
 
どうやら街の中心部からそれほど離れてはいないようなのだが、自分が今どこにいるのさえ分からない。四苦八苦したあげく、ようやくタウンホールを発見。
ここを起点に探そうとするが、どちらに進めばいいのかも分からない。
ホテルは『キングスクロス』というエリアにあるらしいのだが……

 

 ああっ女神さまっ

 

だだっ広い芝生が広がる公園の傍で、オレは地図を睨んでいた(後になって分かったことだが、そこはハイドパークだった)。果たしてここはどこなのか。そしたら背後から「ハロー」と女性が声をかけてきた。
身長160センチくらい、ボブカットで色白のオンナの子。
もちろん、外国人…いや、この場合はオレが外国人か。つまり、地元のヒトね。これがまたえらいカワイイ。セシールのカタログにでも出てきそうなコだった。

どうやら、困っているオレの姿が彼女の母性本能をくすぐったらしい。
「ねえねえ。あなた日本人でしょ?あたし、日本って前から行ってみたかったの。あなたの街のコト、聞かせて」
彼女は英語でそんなことを言っていた。
言ってたに違いない。ていうか、そうであってほしい。

…なんてアホなこと、言ってられるのも今だから。
その時は、マジで彼女が天使に見えた。いや、女神にさえ見えたかもしれない。
何せ『生英語』初めてのオレにとって、道を尋ねるだけでも大変なのに、向うから「どうしたの?」って聞いてくれたんだから。

「アイワナゴートゥー…」なんてもちろん言えないから、地図を指して「キングスクロス」と連呼。そしたら、彼女はゆっくりと「ここをまっすぐ行ってね。まっすぐ」と教えてくれた。
どうやら、偶然にも今いる通りを真っ直ぐ進めば「キングスクロス」らしい。

オレは何度も「センキューヴェリマッチ」とお礼を言った。
「なんだよ、コミュニケーション全然おっけーじゃん」とか調子づいたオレは、何回目かの「センキュー」をEDWINのCMのブラッド・ピッド(ギター片手にごーまりーさーん♪えどぅいんと歌ってるヤツ)よろしく舌を軽くかんで「てんきゅー」と言ってみた。

英語なんて軽いもんだね。誰だよ、英語は難しいなんて言ってたヤツ。
こんな風に調子に乗りやすいのが、オレの欠点なんだよ。ほら、映画とかで主人公が「この道は危険だ」と言ってんのに「オレの勘に狂いはねえぜ」とかほざいて死んじゃうヤツ(笑)。まさに、あのタイプだ。

 

 先手必勝

教わった通り歩いてゆくと、デカいコカコーラの看板が見えた。彼女が言うには、ここら辺から「キングスクロス」というらしい。ホテルとか食い物屋が並ぶ地味なところだ。
 オレの泊まるホテルは、すんげえ小さくて見つけるまでに入り口の前を五往復くらいも歩いたほど地味で薄暗いホテルだった。いかにも逃亡中の犯罪者が身を隠すために使うようなホテルだ。とりあえず荷物を解き、シャワーを浴びてから外に繰り出した。

 まずは腹が減っては戦が出来ぬってことで、メシを食らうことにした。いきなり洋食はキツそうなので、とりあえず韓国料理を食ってみる。焼肉定食らしきものがあったので、そいつを注文。メシが出てくるまで待っていたら、ちょいと小柄だがガタイのいいオヤジ(白人)が入ってきた。

 店に入るなり、オヤジは店員を怒鳴り散らしている。きっとこの店のオーナーか何かで、売上について文句を言っているんだろう。お冷に口をつけながら、成り行きを眺めていた。そしたら、不意にオヤジはオレの席までやってきて、怒鳴り始めた。
 店員さんは「相手にするな」というような表情でこちらを見ている。
 
 どうやら、このオヤジはエラく態度のデカい物乞いだったのだ。オヤジは金を出せとか言っているらしく「マネー」を連発。本当なら大人しく金を渡すか、無視するのが正解。だが、ここでなめられたらというか、ここで折れたら、卑屈な思いを引きずったまま、この国で生活しなければならないような気がした。
 オレはお冷のグラスを叩きつけ、日本語でもって逆にすごんでやった(何と言ったか具体的に書くと、非常に危ないヤツだと思われそうなので割愛させていただくが)。
 
 そしたら、オヤジは小声でブチブチ言いながら、店から出ていった。
 日本人の全てがヘラヘラ笑って終わらせると思ったら大間違いだ。外国だろうが、日本だろうが言いたいことはハッキリという。そいつを押し殺してたら、精神衛生上よろしくない。こんなチンケな野郎なら、なおさらだ。

 とかいって、調子に乗るとナイフでサクっとやられたり、拳銃でズドンとやられてしまう。海外でタンカを切る場合は、十分な注意と経験が必要と思われる。海外でデビュー戦をやらかそうなんて思っちゃイカンよ(特に留学生諸君)。 

 

とんでもねえ街でござる!!

 

初日にトラブルに見舞われ、かつ気分的に勝利を収めたオレは御機嫌だった。しかし、10数時間以上のフライトと荷物を担いでの長距離移動に身体は限界。
ところで、後から知ったことだが、先の女のコがキングスクロスまでの道順を教えてくれたトコロ、あそこはタウンホールのまん前。そこから地下鉄が出ており、キングスクロスにも地下鉄が伸びている。その間約10分足らず。だったら最初から地下鉄を教えてくれよ……

歩き回る元気も失せたオレはとりあえずホテルに戻り、夕飯まで眠ることにした。

目が覚め、時計を見ると午後7時。夕飯にもいい時間である。軽くシャワーを浴び、外に出てみる。
ホテルの玄関を出たオレは愕然とした。昼間ちょこっと歩いた時は、こぢんまりとしたレストラン、土産物屋しかないような静かな街だと思っていた。

ところが、である。

メインストリートの店という店には毒々しいネオンが点滅し、狭い歩道を無数の人々が肩をぶつけるようにしてすれ違う。雑踏の流れの間には、ゴツい大男たちが「カモン、カモン」とか言いながら、通行人を呼び止めている。

この光景、どっかで見たことがあるような…そう、東京なら歌舞伎町、札幌ならススキノ、オレの故郷、仙台なら国分町……ここはシドニーの歓楽街だったのだ。

ガイドブックにも『キングスクロスはオーストラリア最大の歓楽街です。比較的安全になったとはいえ、夜の一人歩きは大変危険です。また、複数で歩いても、路地裏には決して足を踏み入れてはいけません』と書いてある。

確かに海外の歓楽街はおっかない。銃を持って「金を出せ」とか、ドラッグでラリったヤツにナイフでめった刺しにされそうだ。
そーいうこと、早く教えてくれよ!!と言っても後の祭。ガイドブックを見ないのが悪い。オレはたった独り、色と欲にまみれまくった異国の歓楽街に放りこまれたのだ。

ううう、これはヤバイ。
友達もいないし、独りじゃコワイし、布団をかぶって明るくなるのを待とう。
本来ならこれが正解なのだろうが、いかんせん夜の街は嫌いじゃない。いや、好きな方だ。ていうか、大好きなのだ(笑)。オレは御機嫌な顔で歩いていたに違いない。
 
最初に気がついたのは、ストリップ劇場の多さだ。
メインストリートは100メートル…200メートルくらいか。とにかくその短い距離に5、6件はあったんじゃないか?その間にはアダルトグッズの店があったりして。店の前ではセキュリティを兼ねた呼び込みが道行くオトコどもを呼び止めている。その勢いたるや、日本の呼び込みも真っ青。

日本人が通ると「シャチョー、ホンバン、マナイタ、スケベショー、スケベショー」とか言い出す始末。んで、そんなやり取りを斜に構えた視線で見つめている女性たち。そう、彼女たちのほとんどが『立ちんぼ』なのだ(イミがよく分からない女性は、お父さんや彼氏に「たちんぼってなあにい?」ときくがよい)。

これがまたすんげえ巨乳で、スタイルよくて、キレイな人がいたんだよなあ。
し、しかもダンナ!敵は日本の女性ならば必ず着用しておる、あの『ぶらじゃあ』なるものをしとらんのですよ!!もうちょっと、もうちょっとかがんでくれりゃあ、お宝が…とまあ、本心では大興奮だったわけよ。
 
ストリップなんて観てもしょうがないので…というか、ボッタくられたらかなわないので、呼び込みは無視。というより、オレは全然相手にされなかったね。
何回もウロウロしてるから、この街に住んでるんだと思われたのかも。
次にオレの目を引いたのは、ストリートパフォーマー。通行の妨げにならないよう、路地の角とか引っ込んだトコでそれぞれのパフォーマンスを披露している。

スプレーだけで絵を描いちゃう東洋人、シンセ弾いてる女の人、竹馬に乗った大道芸人……結局大勢の人が集まるから、そこで渋滞しちゃうんだよね(笑)。もちろん、ギター一本で歌い上げるストリートミュージシャンもいた。

バンドやってるオレとしては、当然ギター弾きの前で立ち止まった。白人にしてはやけにヘチャムクレな顔で、しかも背がオレより小さい彼は、人懐っこい表情でビートルズを歌っていた。

 

海外デビュー!

オレは手元にあった50セントをギターケースに放り投げ、男のとなりに座った。ほんで「レットイットビーは?」「スタンドバイミーがいいなあ」「あれ、何て言ったっけ?いまじんおーるざぴーぽー♪」とか50セント一枚で勝手なことを言いまくった。
男はオレの日本語でのリクエストに応じてくれ、甲高い声を張り上げた。
あんまし歌わせたものだから、彼は声を嗄らしたらしく「休憩」とかいってギターを置いた。

『お前ェ、日本人だろ。オレはライってんだ』
ライと名乗る彼は右手を差し出し、オレもその手を握り返した。ライはヘチャムクレのうえ、歯並びが悪く、コメディ映画に登場するマヌケな泥棒のようだった。それがブサイクじゃなくて、どことなく愛嬌があるから不思議なものだ。
すると、ライはとんでもないことを言い出した。
『オレ、喉も指も疲れたからよ、お前ェが弾いてくれよ』
ホントはよく分からないが、ギターをよこして「カモン」とか言ってるんだから、そういうことなんだろう。

「し、仕方ない…」
ネックを握ってポジションを確かめながら、指を動かした。まあ、コードで押さえる分なら何とかイケるだろう。といっても、そんなにレパートリーなんてないしなあとか考えていたら、ライが口笛を吹いて手を叩く。通行人の視線が痛い。
「オ、オーライ。レ、レッツゴー」
よく分からない英語でオレはギターを弾き始めた。
選んだ曲はMr.BIGの『TO BE WITH YOU』だ。こいつは世界的にもヒットしたので豪州の人々にも分かるだろう。

Cm#7を押さえ、思い切り息を吸い込み、「Hold on little girl…」と歌い出だす。普段はバンドの仲間が一緒だが、今は独り。しかも独りで弾いて歌えという。すんげえ恥ずかしい。いや、神業のようなプレイ、300メートルくらい先まで通るような圧力のある声が出せるならいいけど、所詮はショボショボのベーシスト。
 道行く人の失笑を買うだけだ…と思いきや、曲が終わると同時に拍手が上がった。3、4人だが人だかりも出来ている。

「何よ、オレってイケてるの?」
またも調子に乗ったオレは『WILD WORLD』だの『STAIRWAY TO HEAVEN』だのアコースティックでイケそうなナンバーを弾きまくった。
そうしている間にギャラリーも増え始めた。
 
『おう、あんちゃん、ジャパニーズソングやれよ。じゃぱにーず』
何曲も弾かないうちに、リクエストされたりして御機嫌だった。実は、この頃、バンドは休止中で(今もそれに近いのだが)、人前で演奏するのは久々のことだった。
やはり、腐ってもバンドマン。ロッカー。人前で演奏するのは大変気持ちのよろしゅうことでございます(笑)。
 
オレは思いつく限りの曲を歌い、最後にはライと同じように指も喉もヘトヘトになった。
気がつくと、ギターケースの小銭も増えている。
ライは小銭を集め、ギターをしまい『メシにしよう』と立ち上がった。オレたちは通りの向かいのピザ屋で1ピース2ドルのデカいピザとコーラを買った。
 
大した稼ぎとは言えなかったが、自分の歌で金を稼いだのは本当に嬉しかった。
金をもらってこんなに嬉しいと思ったのは久しぶりのことだった。
メシを食い終えると、ライは『そろそろ寝る』と帰り支度を始めた。オレは「てんきゅー」と礼を言い、ライの手を握った。
別れ際、ライは『明日もやるからな!』とオレの肩を叩いた。
 
初日から波瀾に満ちた豪州生活。
オレにとっては100点満点のスタートだ。
どうやら、おもしろおかしくやっていけそうじゃないの。
オレの頭からは、すでに不安なんてモノは消え失せていた。

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キングスクロスの地図(笑)。帰国してから購入したペンダブで描いた。

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だいたい食事はマック。世界中どこでも安定の味である。

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シドニーのタウンホール。シドニーに住めば何度も通るはず。

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ボンダイビーチ。昔の友人がこの辺りに住んでいたというので、ひとりで来てみた。