経済の話
今じゃ考えられないけど、20年くらい前…1990年代後半から2000年の初め頃は、飲み屋でぶん殴り合う連中を見るのは当たり前だった。
凶悪なモーターサイクルに跨るバイク乗りたちが夜な夜な集まる店があって、酔っ払うと手が付けられなくなることなんてしょっちゅうだった。
いつの間にか店もなくなり、一番鶏と共にねぐらに戻っていた豪気なバイク乗りたちも姿を消し、生き残った連中は今じゃすっかり健康を気遣う中高年だ。
当時、バカ騒ぎしていた仲間のひとりが、あちこちで飲食店や飲み屋を経営する実業家になり、ひょんなことから再会。
お互い大人もといオッサンになったこともあり、20数年前は話題にも出なかった経済の話に。
相手が飲食店ということもあり、コロナ禍のせいで、いろいろ大変だろうけど、どうなの?と聞いたら
「そりゃ大変なことには違いないけど、コロナのせいでこうなったわけじゃなくて、もともとギリギリでやってて崖っぷちだった業界が、コロナでトンと押されて真っ逆さまになったんですよ」
という。
どういうことか、と聞いたら
「だって考えてみて下さいよ。オレたちがつるんでいたあの頃と今のアルバイトの時給、どれだけ違いますか?少しは上がったかもしれないけど、100円とか150円て話でしょ?」
確かにそうだ。
ハタチそこそこの頃、ド田舎のレストランで板前の真似事をしていた頃、700円くらいから始まって半年くらいで750円位まで上がったと思う。
法律で定められた最低賃金が700円を突破したのはいつだ?
と思ったら、2014年に704円になり、ほぼ750円になったのが2016年…つい最近のことだ。
同じような時期、真昼間の仕事で時給800円以上の仕事をしたこともあるから、30年近く、世の中の給料は変わっていないことになる。
何でそんな給料しか払えないのか。
答えは簡単で、メニューの価格が上げられないからだ。
たとえば、居酒屋をはじめレストランでお馴染みの生ビール、500円~600円を軸だろうけど、これだって10年20年ほとんど変わらない。
「とりあえず生」という1番打者にして花形選手の生ビールがこの価格からスタートするわけだから、フードも大きく変えられない。
一方、原油をはじめ世界中で必要とされている物資などは、どんどん価格が上がっている。
われわれバイク乗りの純正部品も欧米や新興国市場での価格に引っ張られ、どんどん値上がりしているのは事実だ。
経済力の無い日本にはオマケして安く売ってくれるわけじゃない。
売値は上げられない、それなのに原価は上がるものだから、人件費も簡単には上げられない。
「飲食は、どんどん労働生産性が低くなっていますよ」と、ため息交じりの友人。
じゃあ、どうすればいいのか。
答えは簡単で、客は過剰なサービスを求めなければいいだけだ。
チップも払う気もない、最低賃金に毛が生えたようなサラリーで働く人間に、あれやこれやと無理をいうからダメなのよ。
外国に行けば分かることだが、レストランとも呼ばないような安い食い物屋、スーパー、コンビニでの接客は、まるで仲の良くない兄弟親戚が店に訪れ「この店に来るなよ」てなくらいのものだ。
愛想がよければ「よう、調子はどう?これ、オレも好きなんだよね」てな感じ。
売っているモノに不具合がなければそれでいいわけで、客もそれが普通だと思っている。
たまに家の近くで見かける、いい歳こいた輩の出来損ないみたいオトコは、いちいちコンビニのバイト店員やスーパーのおばちゃんに絡んでいる。
ああいうのが普通で、接客態度が悪い店員に罪がある、という風潮が続けば、どうなるか?
安い給料で高級デパート並みの仕事をしなければならない。
そんな仕事、若い連中がやりたがる?
昔、そういうのが正しかったのは、それでも給料がどんどん上がる、稼げる見込みがあったから、イヤでもペコペコしてたのよ。
そう考えると、いまのコロナ禍というのはターニングポイントになる。
飛沫感染を避けるため、客とは出来るだけ話さないような仕組みになりつつある。
マスクをしているから、笑顔も適当でいい。
客もささっと商品を受け取り、あるいは店の中で飯を食うのも黙って食ってささっと帰る。
機械的にさばくだけなら、接客業もそんなにストレスはない。
古き時代の「いらっしゃいませ」が欲しいなら、そういう金額の店に行けばいい。
他所の国は、みんなそんな感じ。
ランチでも1食1万円くらいのところは、料理もそうだが、それ相応のサービスを受けられる。
1食500円くらいのところじゃ「ありがとうございました」もない。
「ほらよ」と言われて渡されるだけ。
愛想いいところは「センキュー」くらいは言うだろうけど。
今思えば、国際空港のレストランで、そんな接客サービスだった時に「遅れてるなあ」と苦笑いしたが、ズレてるのは日本人の自分なのかもしれない。
安かろう、でも良かろう、じゃダメということに、いい加減気づかないとね。
コンビニやスーパーでぞんざいに扱われるのが嫌なら文句を言うんじゃなくて、もっと高級な店で高級なものを買う。
それが正しい姿です。