ブログ版 空冷Zとの戦い

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競技としてのフリークライミング

2015年2月15日、茨城県大子町にて行われた「ナムチェカップ2015」という小学生~高校生を対象としたフリークライミングの試合に行ってきました。

町をあげてのイベントで、ものすごい賑わいでした。
選手の皆さんも、運営に携わった方々、大変ご苦労様でした。

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本来であれば、ここで文章を締めくくるのですが。
今回、フリークライミング、特にクライミングにおける「競技」にフォーカスして言いたいことを書き記しておこうと思います。

フリークライミング競技は、合板などで作った壁に、樹脂製の疑似岩(ホールド、と呼ばれる)を配置して、岩場を再現します。
あらかじめ決められているスタートホールドから、ゴールホールドまで辿り着けば「完登」となり、競技が終了します。

「山に岩場があるなら、そこでやればいいじゃん」
と思うかもしれません(そういう時期もあったそうです)。
が、試合中に岩が欠損すると選手によって難易度が変わってしまい、条件が公平にならないという問題もはらんでいます。
ですから、現在の競技はもっぱら「人工壁」で行われます。
競技は主に3種類。


【リードクライミング
15m以上の人工壁を使用。
制限時間内にどれだけ高いところまで登れるかを競います。
これだけの高さから落ちたら致命傷になりますので、途中に設置されたカラビナにロープを通しながら登ります。
カラビナにロープを通す際、必然的に片手を離す、つまり登攀には直接関係ない動作が必要なので、持久力を問われます。
途中で落ちたり、決められた位置でロープを通すことが出来なかったら「失格」となり、競技終了となります。
やり直しがきかない一発勝負なので、長いルートを見極める頭脳・記憶力なども重要な要素です。
また、競技順によって不公平にならないよう、選手は別室に隔離され、先に登った選手の動きを参考に出来ないようになっています。



5mそこそこの壁を登ります。
最上部のゴールを両手で保持したら「完登」とみなされます。
高度が低い分、リードよりも難解で体力を使うルートを作られることが多いです。
例えば、壁の途中からジャンプして、次のホールドを掴むこともあります。
制限時間内は何度もトライできますが、失敗するごとに点数が低くなるルールもあります。
こちらも、公式戦などでは、他の選手が登る様子を見ることが出来ません(ルールにもよります)。


【スピードクライミング
リードクライミングのように高い壁を使用。
選手は最上部からロープで吊られています。
同じルートの壁を2枚ならべて、選手2名が同時にスタートします。
ゴールにはセンサーがついており、先にゴールを触った選手が勝ちとなります。
「まったく同じ壁とルートをつくる」ということが予算上厳しいのと、技術よりも瞬発力がある者が強い、というスタイルに抵抗のある関係者も多いようです。
日本では、ほとんど普及していません。
しかし、皮肉なことに、クライミングに詳しくない観客にとっては、いちばんエキサイティングな競技で、Xゲームの種目にも採用されたことがあります。



ライミング先進国のヨーロッパ、アメリカでは、大きな会場に観客が満員となる人気スポーツとして知られています。
日本でも日本山岳協会、国体競技などの「公式戦」のほか、各地のクライミングジムが行う小規模の試合(コンペティション)が行われていますし、IFSC国際スポーツクライミング連盟)の2014年のナショナルランキングは、日本が1位です(ボルダリング。高い壁を登るリードは2位)。

まさに、日本はクライミング強豪国なのです。


が、世界選手権やワールドカップで快挙と言ってもいいほどの好成績をおさめても、スポーツ新聞においても記事を見たことがありません(Google Newsで記事を検索してみたが、世界で活躍する日本人選手の動向を報じているスポーツ紙はありませんでした)。

我らが宮城県も、掘創選手をはじめ、松島(旧姓 簾内)由希選手、三浦絵里菜選手という国体優勝ペア、ワールドカップ出場選手を輩出しています。
最近でこそ、最年少の三浦選手が複数のメディアに活躍ぶりを取り上げられていますが、まだまだ物珍しさが先行している気がしてなりません。

そんなものだから、彼らに続こうとする宮城県内の少年少女の選手たちが脚光を浴びることも、評価されたということも耳にしたことはありません。
メジャースポーツに取り組む選手が、宮城県内で行われた大会で優勝しようものなら「よくやった」と全校生徒の前で表彰されることもあるようですが、クライミングの場合は、全国大会で入賞してもスルーです。

山岳部のある高校生は別かもしれませんが、宮城県内の小学校や中学校の先生たちは、クライミングの選手に対して「スポーツバラエティのまねごとをしている変わった子供たち」くらいの認識しかないでしょう。

東北には、それこそ国体やワールドカップに出場する選手と同等に戦って「化け物」扱いされている小学生・中学生もいます。
しかしながら、それでも、学校は彼らをただのビックリ人間、イロモノとしか見ていません。
プールの授業で上半身裸になろうものなら、鍛え上げられた筋肉に対して

「気持ち悪いな、お前の身体」
と別の意味で「化け物」扱いされるあり様です(実話)。

本来であれば、このような才能を持つ若い世代を大人たちが支援していくべきなのでしょうが、残念ながら地域によって取り組みには大きな差があります。
例えば、日本山岳協会が開催する公式戦や国体などは、各都道府県の山岳連盟、山岳協会といった団体から推薦されなければ出場できません。
都道府県代表選手の選出で実質上の役割を終える団体もあれば、選手を定期的に集めて合同練習会を開催したり、強豪選手が集まる試合に遠征させるなど、金も口も出す団体もあります。

なぜ、こんな違いがあらわれるのでしょうか。

むろん、予算の違いもあるでしょうが、トラディショナルな登山家たちによって設立、運営されている組織と、フリークライミングの選手・関係者の関わり方、距離感に原因があるのではないかと推測しています。

各地域の山岳団体は、登山における振興、自然保護、安全管理、登山を通じた社会教育などを目的に設立されています。具体的には、登山道を整備したり、冬期登山における安全講習会、救護訓練、初心者に対する講習会などを開催しています。何十年も登山を続け、地元のみならず各地の山を歩いたベテランも多く、まさに「やまおとこ(おんな」たちの集まりです。

後から派生してきたフリークライミングは、山岳競技とはいえ「山登り」とは全く関係がありません。
とはいうものの、最近は手軽に楽しめる「ボルダリング」が流行しているせいで、山間部の岩場を登るクライマーも増えています。ガイドブックに掲載された岩場には、週末ともなると大勢のクライマーが集まり、なかには大きな声で騒いだり、上半身裸になって登ったり、ライトを持ち込んで夜中まで居座ることもあります。
若い人たちが増えて賑やかになったね」
と好意的に見てくれる人もいますが、一方では
「自然に敬意を払うことのない不届き者」と思う人もいるようです。
実際、ゴミを散らかしたり、岩場を滑り止めの粉まみれにしたり、その辺で用を足したりする不届き者もいて、近隣住民の怒りを買う、といったことも問題視されています。

念のためお伝えしますが、フリークライミングの世界でも、自然保護に最大限注意したり、ゴミや用を足したものについては現地に残さない、近隣住民や登山家にも挨拶をする、というのは最低限の常識として認識しております。しかしながら、山の中に入っているにも関わらず、ふもとに近いところの岩場で遊ぶ場合は、自分もまた「登山家」のひとりである意識は希薄かもしれません。
ということは、もう少し、両者が意識的に歩み寄り、例えばフリークライミングの選手たちも、彼らの活動に賛同、協力することで、よりよい支援が得られるのではないかと思います。

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そんな背景をご理解頂いた上で、ナムチェカップに話を戻します。

総務省の町おこし協力隊による事業として開催されてはいますけど、いわゆるカタイ「お役所色」はなく、町の皆さんによる「一大イベント」という雰囲気が溢れていました。
会場内では、地元産のリンゴを使った「生搾り」のジュース、大鍋で作られた豚汁が振舞われたり、また多くのボランティアの方々が運営を支えていました。
例えるなら、漁港や商店街で行われる「お祭り」のような感覚でしょうか。
地域振興事業の一環として開催されたことが、このような歓迎ムードを作り上げたのだと思います。

また、競技種目にボルダリングのほか、スピードクライミングを選んだのが、結果的には大成功でした。
実は始まる直前までスピード種目には、懐疑的でした。
おそらく参加した選手の99%が、スピード競技に出たことはなく、練習もしたことがないはずです。
はたして、試合として成立するのか、不安もありましたし、ついでに言うと個人的にはスピードクライミングは「イロモノ」でしかなく、これをクライミングとして思われたら不本意だ、という気持ちもありました。

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が、蓋を開けてみれば、一番盛り上がったのはスピード競技でした。
かくいうワタクシも、手に汗を握りながら、楽しく観戦していたという・…(笑)。
もし、これを計算ずくのうえ、立案していたのだとしたら、すごいことだと思います。

民間のクライミングジムが同じようなことを出来ないわけではありません。
近所の飲食店に協力を仰ぎ、美味しそうな食べ物の香りで、通行人を誘導してもいいでしょう。
携帯電話の代理店が「今日加入すれば、お得なサービス」がありますよ、と声をかけてもいいですし。
小中学生が選手として出るなら、家族が観客として来るだろうから、住宅メーカーや塾、家庭教師などの業界も営業出来るチャンスがあります。
競技が終わったら、観客にレンタルシューズを貸し出して、同じところを登らせてもいいでしょう。

とにかくきっかけは何でもいいのです。
足を止めさせて、振り向かせ、こちらに呼ぶ。
いかに顧客を創出するのか、ということが大事なのです。

まったく知らない人を呼び込まなければ、いつまでたっても内輪ウケで盛り上がるマイナースポーツのままです。

数年前、シンガポールで行われた物産展で、宮城県産のレトルト商品を販売を企画したことがありました。
最初は販売員にまかせっきりだったのですが、なかなか売れません。
「どうぞ、日本の美味しいお魚ですよ」「ごらんください」
現地の販売員はありきたりの言葉をかけるだけ。お客さんは素通りです。
あまりにも売れないものだから、販売員もだんだんやる気がなくなってきます。
励ましても「この場所だから売れない」「説明しても分かってくれない」など、出来ない理由ばかり口にします。

そういう人にガンバレと言っても仕方ないので、少し考える時間をもらいました。
で、試食用のナベをグラグラと沸騰させ、現地の協力会社に魚のイラストをボードにしてもらいました。
ボードには手書きで「魚は脳にいいですよ」と解説を入れました。

ナベを沸騰させたのは、もうもうとあがる湯けむりが、遠くのお客さんにも見えるからです。
白い湯気を見て、近づいてくるお客さんが増えました。

魚の絵は、レトルトだと良く分からないので、原材料を明確にして何を売っているのかお客さんに理解してもらいたかったのです。
また「脳にいい」というキャプションは、シンガポールは子供への教育が熱心ということを聞いたので「勉強するお子さんに如何ですか?」と訴えたのです。
昔、日本でも「魚を食べると頭がよくなる」という歌がありましたけど、あの要領です。
DHAの効能はシンガポールでも知られていたので、あまり説明は要りませんでした。

そして、親は子供に少しでも良い教育を、と必死に働いています。
忙しさから、つい料理にも手を抜いたりするでしょう。
「そんな時でもお湯の中に放り込むだけで、すぐに食べられます。低カロリーだから夜食でも安心ですよ」
こんな感じで話してごらん、とレクチャーしたところ、どんどん売れるようになりました。
何でも巧くいくとは限りませんけど、ちょっとした工夫で、物事は大きく改善するという事例です。

ライミング業界の方々からすると「素人が、内情を知らないくせに偉そうなことを言うな!」と思われるかもしれません。
確かに、競技運営や選手の育成に関わっている方々は、日々とてつもない苦労をされています。
だからといって、その苦労を理解しろ、共感しろ、といったところで、何も前には進みません。

ラーメン屋が客に「オレが散々苦労して作ったラーメンだ。美味いと言わないとただじゃおかないぞ」と言ってるようなものです。苦労してようが楽して作ろうが、美味いラーメンは勝手に売れていくのです。
もし、売れないのであれば、ラーメン自体に魅力がないか、売り出し方に問題があるのだと思います。

先述の通り、歴史ある欧米諸国の選手たちを押さえ、ナショナルランキングで上位を独占している日本のクライミングは、まぎれもなく本物です。
しかし、国内での評価はいかがなものでしょう。
国体種目からも、外されかけたという話も聞いたこともあります。

ワタクシが趣味とするオートバイも、1980年代は沢山の若者たちによって愛されていました。
しかし、今では、バイクに乗りたいという若者がどれだけいるでしょうか。
世界でみれば、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキといった日本の4大メーカーのオートバイは、ロードレース世界選手権スーパーバイク世界選手権スーパースポーツ世界選手権、モトクロス世界選手権などの大きなレースで、今もなお活躍してるというのに…故郷の日本では…
もはや語るまでもありません。

ライミング競技も内輪ウケで盛り上がって終わるのか、競技の一種目として世間から認められるのか。
実は、すでに正念場なのかもしれません。