ブログ版 空冷Zとの戦い

Kawasaki Z1Rに関するブログ?

Farewell The Legend of Special assassination staff

藤田まことさん(以下敬称略)が76歳で亡くなったそうだ。
自分にとって藤田まこと中村主水であり、昼行灯を装いつつも、実は才気煥発、一騎当千の仕事人という設定には、幼少期に好きだったジョン・シルバー(スティーブンスン原作の宝島に登場する極悪海賊だが、物語中盤まで料理人を演じている)にも似たダンディズムを感じていた。

中村主水はご存知の通り、職場では閑職に追いやられ(自分でそう差し向けていたのだろうが)、家庭でも跡取りを作れないダメな婿養子扱いなので、仕事人としてハードボイルドに描写される時間は非常に少ないし、裏家業の時には仕事仲間たち全員がシリアス、ハードボイルドなので、中村主水が突出するわけではない。

でも、リアルタイムに観ていた自分が「中村主水はハードボイルドだなあ」と認め、ともすれば涙すら誘われる場面がある。
それは、シリーズの最終回。
大仕事をやり終え、仲間の何人かが死ぬなどして、とりあえず現チームでの稼業を解散、というのが定番。別れが辛くて泣いてチームの存続を訴える者もいるけど、解散の流れは止められない。

「散ろうぜ」

主水が静かに呟くと、あのBGMが流れ始める。
ひとり、またひとりと立ち去っていく仕事人。
泣いたままの者もいれば、新天地を夢見るような表情の者もいる。
彼らは基本的に独り身だし、手に職もあるから、何処へ行ってもそれなりの生活をする、と予想される。失った仲間のことも、旅の風に吹かれながら、少しは忘れることもできるかもしれない。
なかには足を洗って、まっとうに生きることを許される者もいるだろう。

だけど、主水は家庭も昼行灯とはいえども役人としての仕事があるから、逃避行はかなわない。
恨みを晴らしてくれと願った依頼人(たいていは死んでいる)の思いや、死んでいった仲間たちの思いが残る江戸に留まらなければならない。
当たり前だが「しんどいなあ」と、こぼす相手もいないし、主水はそういう気持ちを表に出すことはない。

仲間を全員見送った後、主水は奉行所へ帰る。
門をくぐる直前、何事もなかったかのように「今日も暑くなりそうだな」と空を見上げたその姿は、窓際役人の中村主水

最後、多分5分くらいなんだろうけど、最終回のシーンには、中村主水がもつハードボイルドが凝縮されていて、個人的にはここがカタルシスだったりもする(嫁姑の元へ帰って、ドタバタで終わることがあっても)。

年齢からすれば「うだつのあがらない中年役人」をリアルに演じるのはムリがあるのかもしれないけど、新たな中村主水がもう見れないと思うと本当に寂しいことである。